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諸君がYOSHIMASAの未来を創る

ソフトウェア技術者の社会的地位の向上と、真のソフトウェアハウスを目指す事は創立以来の企業理念であった。そのため、何度も事業方針の転換を迫られた。その原因のひとつに、ソフトウェアエンジニアの質の問題がある。労働の価値は、その難易度や質、生産性によって決まるものではない。それはコーディング技術でなく、お互いの信頼関係にある。 ソフトウェア産業は急成長しており、人手不足も手伝って、充分な人選が為されなかった傾向がある。技術の習得とか最先端テクノロジーの研究とかいったことを追及すべきところで、本来有能な人間が向上を求めず、適当にやっているのだ。ソフトウェア技術者に淘汰がなかったのは、需給バランスが需要に偏っていたからであり、極端に言えば、若くて人件費が安ければそれでよかった。しかし、これからはそれではいけない。
仕事が簡単すぎて面白くない。マンネリ化してサボタージュする。そうして信用を失う者が多かった。個人レベルのみならず、業界にも問題はあった。技術者不足の折から少しでも技術を持っている者を重宝がり、甘やかしてきた。それがソフトウェア技術者の質の向上を阻害してきたといえる。
仕事には誠実さが必要であり、信頼には信頼で応えなければならない。それを会社自ら実行するためには闘う必要があったのである。社員数や売上ではなく、基本的な問題解決のためである。派遣だとか受託だとかではない。仕事に場所は関係ない。仕事に向かう姿勢が問われるのだ。そんな当然のことでも、実行するためには社員数の増大を抑えねばならなかった。心から信頼できる人とでなくては本当の「仕事」ができないからだ。エンジニアリング会社は、いいものさえ作れば会社が伸びると信じていて、一人の社長と多くの技術者といった形態を越えていないが吉正だけは妥協したくない。
吉正は素晴らしい会社になった。動きもその指針も素晴らしく、あらゆる点で日本や世界を越える企業である。しかし、その構成員一人一人の信頼の厚さを思うと、まだまだ先は長いという気がする。
吉正が目指す「真のソフトウェアハウス」の基本コンセプトは、少人数で大きな事業体を動かし、小さな会社が大きな会社を動かすところにある。会社の規模が小さくとも、社会に貢献することはできるのであって、社会の信頼に応えるソフトウェアハウスづくりを目指している。
現在進めている多角化はグループとしての拡大であって、ソフトウェア会社の内での多角化ではない。ソフトウェア会社としては少数精鋭を貫き、社会に根を下ろそうとしているのである。また、少数精鋭とは数の多少にはこだわらない、という意味である。本当に分かり合える人間の範囲で、互いに協力していい仕事をしていきたいのだ。
社員に仕事をさせて会社を動かすのではなく、社長も社員もなく、はじめから「いっしょにやらないか」といった感じがいい。しかし、そこではエンジニアたちもソフトウェア技術以外の能力を要求される。どんな技術も突き詰めれば、単なる技術の域には留まっていない。そこが大切なのである。吉正の発展の原動力はここにあり、この点においては世界一であると信じている。

(87年5月号より)

代表取締役社長 櫻井正次


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