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趣味礼賛―東京都渋谷区 櫻井正次さん●吉正電子株式会社社長
男の夢と勝負を秒差に賭けてタイムラリーにマシンを駆る
六月三日、土曜白の夜、埼玉県飯能市のレイクサイドパーク宮沢湖に六十台の車が集結。JAF公認準国内競技「JACSラリースクールシリーズ第三戦」に挑む六十チームの選手たちが、それぞれの愛車の最後の整備や作戦討議に余念がありません。 やがて定刻ジャストの二十一時三十一分、トップを切ってゼッケン1番の日産MARCH-Rがスタート。ハンドルを握る櫻井正次さん(37歳)とナビゲータの浜上さんのヘルメットがフラッシュライトに光ると、車は闇の中へ消えます。 翌日早暁まで深夜の奥武蔵・秩父山地の道を駆け巡る、コース全長二百キロのタイムラリー。その戦果は、コンピュータ・ソフトウェア会社・吉正電子(株)社長に戻った櫻井さんのお話で―。
徹夜ラリーの成績はいかがでした?
結果は第四位でした。ラリー出場はこれで三回目。一、二戦は十位台でしたから、四位ならまあまあといいたいところですが、マシンを全日本ラリー級の性能に仕上げて密かに優勝を狙っていただけに、やっばり口惜しくてね。でも、あと三戦ありますから、次は二位あたりにつけて、その次は優勝…とのし上がっていく方がドラマチックじゃないかなんて、まあ負け惜しみ半分で考えてるんですよ。
タイムラリーとは、一口でいえば、単にスピードの優劣ではなく、走行速度の正確さを競うカーレースで、きわめて厳格なルールとマナーの遵守が要求されるモータースポーツです。
走行コースはスタート直前に渡されます。それもコース全体の地図じゃなくて、今回でいいますと二百キロの道のりを四十一の区間に分割して、それぞれに道順のヒントになる目印を簡単に示しただけの部分的な地図。だから、もし読み違えたり目印を見過ごしたら、とんでもないところへ迷い込んでしまうわけです。
でも、それは単なる舞台設定。区間ごとに時速分単位の指示速度が定められていて、これを正確に守って走るのがレースの眼目なんです。それを、どこにあるのか知れない十二か所のチェックポイントで係員が計測し、たとえば一秒早すぎるか遅く通過すれば減点一点、十二ポイントの合計減点が勝負です。傍らの場合は五十三点、つまり五十三秒の誤差が出てしまったわけです。優勝は三十三点、最下位は二千五百点くらいでした。
ラリーのどんな魅力にひかれて?
車にはラリー・コンピュータを搭載していて、ナビゲーターがつねに速度の過不足を計算してドライバーに指示を出すⅧそれに従っていれば、理論上は指示速度を正確に守れるはずなんですが、そうはいかないところがタイムラリーの難しさであり、面白さだと思いますよ。
たとえば走行距離は車輪の回転数の積で計算されますが、タイヤの空気圧で微妙に違ってくるし、砂利道やダートで車輪が空転すれば誤差が生じる。それ以前の問題として、ヘアピン・カーブの連続をかなりの高速で走り抜ける指示などもあって、それに運転技術が追いつかないこともありえます。一瞬一瞬に判断力、技術の熟練、勇気が要求されるわけで、中間の休憩をはさんで約入時間を緊張の連続で走り続けるのはかなりきつい。ゴールインしたときには身体も神経も雑巾みたいになってしまいます。
そんなにシンドイことを、何を好きこのんで…と思われるかもしれませんが、僕にいわせれば、自分の力で勝負に賭ける快感と充実感の魅力。なぜといわれても、これはもう、人間に残された原始的な闘争本能みたいなもので、なんとも説明不可能なんですね。
そもそも僕にとつて、ラリーが「趣味」
なのかどうかもよくわからない。仕事以外の楽しみごとがそうだといわれればたしかにそうですが、少なくとも気晴らしや余暇の有効利用という意識はありません。
気障に聞こえるかもしれませんが、入間、生きている間にやりたいことに真剣に勝負したい。事業や仕事も、世間で趣味と呼ばれていることも、その意味で同列じゃないかという思いがあるんです。
では、事業も趣味も「勝負」だと…?
「勝負」が好きなんですね。二十五歳で会社を興してから人並みの苦難時代は経験しましたが、これしきのことで負けちゃ男がすたると…。別に悲壮感はなくて、一つの勝負ごととして事業をとらえていたところがあります。
それが現在、一応の企業に育って業績も伸びていますが、これに安住はしたくない。まだまだ不十分な点がたくさんあるし、もつと大きく飛躍したい。そのために最も必要なものが、僕を始め全社員が仕事を含めた人それぞれの夢に対して、思いっきり勝負するエネルギーを持ち続けることだと僕は考えるのです。
で、僕白身を反省しますと、経営者として人育てに忙しくなってから、以前のょうな勝負精神が鈍ってきた気配がある。トップがこれじゃいけないと、今年からいろいろな夢に挑戦し始めました。たとえば、いま取り組んでいる資格試験は、情報処理技術者一種、アマチュア無線二級、英検二級、簿記二級…もちろん、最高資格まで挑戦し続けますよ。
ラリーもその夢の一つで、ぜひ優勝を…と狙ってるわけです。それに、この夏は富士スピードウェイの「フレッシュマンレース」に出場します。なにしろ時速二百キロの初勝負で、いま持っている昂内A級ライセンスから国際C級に昇格するために決勝進出が必須条件。
もう、胸ときめかせて満を持しているところです。
さっきいいましたように、それらを趣味と呼んでいいのかどうかはわからない。でも、たとえ何と呼ぶにしても、僕にとつては仕事のためにも生きるためにも、なくてはならないエネルギー源だということ、それだけは確かなことなのです。
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